舌癒着症ってご存知ですか?
おっぱいがうまく飲めない赤ちゃんや、子どもから大人までのいびき、睡眠時無呼吸症の原因とも考えられている舌癒着症とは?
舌癒着症・・・、おそらく皆さんはこんな疾患を聞いたこともないと思います。
しかし、この疾患を知り、治療することで、われわれが抱えているさまざまな症状が改善されることが最近分かってきました。
今回はこの舌癒着症についてお話します。
舌癒着症とはどのような病気でしょうか。
正しくは“先天性舌癒着、喉頭蓋・喉頭偏位症”といいます。それこそなんだか舌を噛みそうな名前ですね。
下あごに付いている舌の位置が先天的に前方に位置しているために、舌がヒキツレ(ひきつった状態)を越こし、舌の後ろにある喉頭蓋(のどの奥にあり、誤って気管に食事などが入り込まないようフタの役目をする部位)や喉頭がゆがむため、呼吸が制限される病態です。
乳児ではおっぱいを飲みたくてもうまく飲めない、よくむせる、途中で飲むのをやめてしまう、などの症状がみられます。その結果、母親は乳腺炎や乳頭亀裂をきたしやすく、哺乳行為に苦痛を伴うことになります。他にも寝つきが悪く、乳児でもいびきや睡眠時無呼吸症をきたしたり、さらにはSIDS(乳幼児突然死症候群)の予備軍になる場合もあります。
一方小児では、歯並びや姿勢の悪さ、声が小さい、発音が悪い、協調性に乏しい、落着きがない、怒りっぽい(キレやすい)、依存心が強く甘ったれ、いびき、睡眠時無呼吸症などを引き起こす可能性があります。
この疾患は常染色体優性遺伝で、この状態で生まれてくる人の方が多いといわれています。この疾患の歴史は古く、すでに16世紀にはフランスのパレという医師がこの疾患の概念と治療法を確立していました。当時のヨーロッパではほぼ全例の赤ちゃんが、出生直後にこの手術を受けたとする報告が残されています。
舌癒着症の診断と治療法は?
この疾患の診断、治療はいたって簡単です。まず、口を開けて頂き舌の位置を確認します。この際、舌小帯という舌の裏側のスジの有無は関係ありません。その後ファイバースコープ(径が数mmの細い内視鏡)を鼻から入れ、喉頭や喉頭蓋、気管の偏移を確認し診断いたします。
治療法は手術です。舌の付け根の部分を局所麻酔(年齢によっては全身麻酔)でレーザーを用いて切開し、その奥にある頤舌筋(いぜつきん)〔「おとがいぜつきん」とも言う〕を切開します。この筋肉は喉頭開大筋であり、のどを開く筋肉です。この筋肉のヒキツレを切ってあげることで、のどの位置が正しくなり呼吸が楽になるため、さまざまな症状が改善されるというわけです。赤ちゃんから大人まで手術は日帰りで可能です。
なぜ舌癒着症の治療が広まらない?
歴史が古く素晴らしい手術なのに、一般の方はおろか、医学界にはまったく広まっていません。それはなぜでしょう?残念ながら20世紀初頭に、メスを持たない医師から「こんな手術はする必要がない」といわれ始め、そのままこの意見が通ってしまい、現在では小児科の教科書からこの疾患が削除されてしまいました。ここでは詳細は記述いたしませんが、医学界などの複雑な事情が絡んでいます。
したがって、この治療に関しては現在保険治療が認められておらず、自由診療になっています。また、この診療や手術ができる病院は極めて少ない状況です(全国でも6ヶ所ほど)。これはとても残念なことです。
これからの舌癒着症
現在、この手術を子供に受けさせその効果に驚き、喜び、舌癒着症の治療を世の中に広めようとする“舌癒着症ママの会”が発足され、草の根運動が始まっています。前述した向井先生や神奈川歯科大の山本伊佐夫先生らが舌癒着症学会を立ち上げ、私も参加させていただき地道な運動を展開しています。
当クリニックには連日、舌癒着症か否か診て欲しい、耳鼻科医、小児科医、歯科医、助産師らから大変多くの患者さんの紹介をいただいています。
これからの我々の健康を考えると、舌癒着症というこの古くて新しい疾患概念が再び日の目を見るのもそう遠くはないと思っています。
出典:安全と健康第60巻第11号2009年11月23知ってるつもり?からだの不思議『舌癒着症ってご存じですか?』山西敏朗 中災防より抜粋。一部改訂。
舌癒着症の診療について
舌癒着症の診察は、≪完全予約制≫です。
診察をご希望の方は、必ずクリニックまでご予約のお電話をください(03-5155-0822)。
予約なく来院された場合の診察はできません。あらかじめご了承ください。
また、お電話でこの疾患に関する詳細を質問されましてもお答えすることはできません。
受診された際に約1時間ほどスライドを用いて事細かく説明いたします。そのうえでご質問くださるようお願いいたします。
舌癒着症治療の流れ
舌癒着症治療とは
舌癒着症治療とは舌裏面にある頤舌筋(オトガイゼツキン)を切断する手術です。
診察
・舌癒着症に関するスライド説明(約45分)
・舌の診察、乳児の場合;授乳中の酸素モニター
・喉頭ファイバー検査
説明費用4,950円
診察及び検査費用
無料~4,000円程度
(保険適応のため年齢、保険によります。)
舌癒着症と診断され手術を希望された場合
・術前検査
・喉頭ファイバー
・採血採尿
・手術に関する説明と同意書の作成
18,500円(検査代説明費用込み)
(保険適応外)
手術
局所麻酔手術;45,400円~122,000円
(乳幼児の場合には月齢年齢体重歯の生え具合により細かく費用が変わります。)
全身麻酔手術;110,000円~170,000円(3歳以下の小児の場合には年齢により費用が変わります)
術後乳児;助産師によるマンマケア(ケア費用は手術費用に含まれます)。
手術翌日・術後診察
・舌手術創部の診察及び消毒
・乳児の場合;授乳中の酸素モニター
・再癒着防止のためのリハビリレクチャー
・喉頭ファイバー検査
15,000~20,000円程度
(検査代リハビリ指導費用込み)
(保険適応外)
手術1週間後診察
・舌手術創部の診察及び消毒
・再癒着の有無の確認
中学生未満1,000円
中学生~6,600円(保険適応外)
手術2週間後診察(成人以外)
・舌手術創部の診察及び消毒
・再癒着の有無の確認
中学生未満1,000円
中学生~6,600円(保険適応外)
手術1か月後診察
・舌手術創部の診察及び消毒
・喉頭ファイバー検査
15,000~20,000円程度
(保険適応外)
下図は、上記の流れと同じ内容となります。
舌癒着症手術に関してのリスク
1、出血→唾液に少量血が混じりますが大出血をきたした例は0%です。
2、感染→抗生剤を処方します。重篤な感染症は0%です。
3、疼痛→鎮痛剤を処方します。数日口内痛があります。
4、再癒着・創部瘢痕化・肉芽形成→0.3%の確立できたします。予防のためのリハビリ法があります。
5、その他→呂律不良、舌のしびれ感、口内違和感、舌軽度偏位(舌を前に出すと左右に偏る)など起こりえますが、いずれも一過性であり、術後1か月ほどで落ち着きます。但し、リハビリを怠るとこういった症状が長引く場合があります。
6、リハビリ方法→簡単なマニュアルがあります。必ず説明しマニュアルをお渡しします。
舌癒着症の診断と治療法は?
この疾患の診断、治療はいたって簡単です。まず、口を開けて頂き舌の位置を確認します。この際、舌小帯という舌の裏側のスジの有無は関係ありません。その後ファイバースコープ(径が数mmの細い内視鏡)を鼻から入れ、喉頭や喉頭蓋、気管の偏移を確認し診断いたします。
治療法は手術です。舌の付け根の部分を局所麻酔(年齢によっては全身麻酔)でレーザーを用いて切開し、その奥にある頤舌筋(いぜつきん)〔「おとがいぜつきん」とも言う〕を切開します。この筋肉は喉頭開大筋であり、のどを開く筋肉です。この筋肉のヒキツレを切ってあげることで、のどの位置が正しくなり呼吸が楽になるため、さまざまな症状が改善されるというわけです。赤ちゃんから大人まで手術は日帰りで可能です。
日本におけるこの手術のパイオニアである向井診療所の向井將先生によると、乳児のほ乳の改善率は80%以上、小児や成人のいびき・睡眠時無呼吸症も70%~80%と高率な結果が得られています。
当クリニックでも手術を行っており、同様の結果が得られています。術後、小児では集中して物事に取り組むことが出来るようになり、学校の成績があがった、コミュニケーション能力が向上し、友人が増えた、大人では睡眠が深くなり日々の疲れが取れた、肩こり、腰痛、冷えなどが改善し生き生きしてきた、など、手術を受けた方々の多く喜びの声をいただいています。
本手術は、アンチエイジングの一方法ともとらえることができ、私自身もこの手術を受けています。(自分でやるわけにはいかないので向井先生にお願いしました)
舌癒着症Q&A
このコーナーでは舌癒着症に関する皆様の素朴な疑問にお答えいたします。
Q1 舌癒着症とは舌小帯短縮症のことなのでしょうか?
A
全く異なります。
舌癒着症とは正式名称を“先天性舌癒着喉頭蓋喉頭偏位症”と言います。これは舌の位置異常により呼吸をつかさどる喉頭が偏った状態にあることを示しています。
一方で舌小帯短縮症とは舌の裏面にある舌小帯が短くっついている状態のみを示します。
Q2舌癒着症と舌小帯短縮症は同じ手術の内容になりますか?
A
全く異なります。
舌小帯短縮症の手術は舌小帯のみを切開するきわめて単純な手術です。
しかし舌癒着症の手術は舌裏面の頤舌筋(イゼツキンもしくはオトガイゼツキンと読む)を切開するため、トレーニングを受けた医師や歯科医師の熟練した技術が必要とされます。
Q3 なぜ頤舌筋まで切開するのでしょうか?
A
呼吸改善目的のためです。
頤舌筋が喉頭(呼吸の部位)の位置のゆがみに関係し、呼吸を狭くしているためです。
したがって舌小帯のみの切開では呼吸の改善はありません。
Q4 舌癒着症であると、どんな症状が出ますか?
A
乳児では哺乳障害、夜泣き、母親の乳房トラブルなどが、小児では歯並びや噛み合わせの異常、姿勢の悪さ、不登校、怒りっぽい、無気力、自閉や多動性傾向などが、成人ではこれに加え生き辛さ、様々な不定愁訴(体の冷え、肩こり、腰痛、頭痛、肌荒れなどなど)、不平不満顔、他人や隣人と頻回に揉める、社会に適応できない、年齢より老け込むなどがみられます。
年齢を問わず、鼾、睡眠障害をきたし、生命に関わることもあります。
Q5 舌癒着症は年齢とともに自然に改善すると聞きましたが・・・
A
自然に改善することはありません。むしろ赤ちゃんの時には気付かなかった様々な症状が顕著になり(上記説明にあるように)、悪化していくと考えられています。
Q6 診察の時に内視鏡で喉を見ると聞きましたが、なぜでしょうか?毎回診察の時に内視鏡検査をするのでしょうか?
A
舌癒着症とは舌の位置異常により呼吸の部位である喉頭が偏った状態にあることを示しています。したがって、喉頭の位置の確認には内視鏡を必ず使用し診断します。
術前、術後に比較検討するために行いますが、毎回ということはありません。
また、内視鏡の代わりにレントゲンで確認をする場合もあります。
Q7 上唇小帯短縮症とはどのようなことを言いますか?
A
上唇癒着症とも言います。
上唇の裏面にある上唇小帯がくっついた状態のことを言います。
乳児では哺乳障害、母親の母乳トラブルなど、小児、成人では歯列不正、咬合不全さらに鼻閉や口呼吸が生じます。これらの改善を目的に手術をしています。
Q8 上唇癒着症の治療法を教えてください
A
上唇の裏面にある上唇小帯からその奥にある鼻中隔下制筋を切ります。
この筋肉は表情筋の一部で鼻(鼻翼や鼻腔)や口角を下方に引っ張るものです。
この緊張や抑制を開放する手術です。
■手術について
Q9 手術時間や麻酔方法について教えてください
A
乳幼児は基本的に表面麻酔(塗る麻酔薬)、小児は全身麻酔、成人は局所麻酔での手術になります。
手術時間は乳幼児は10分程度、小児は麻酔時間を入れても1時間程度、成人は30-40分程度で終わります。
Q10 手術機械は何を使用するのでしょうか?
A
レーザーメスを使用します。
Q11 麻酔のリスクはありますか?
A
過去に麻酔で異常をきたした方は皆無です。
乳幼児は塗る麻酔のためリスクはゼロに近いです。
局所麻酔や全身麻酔の場合には本人や家族に麻酔アレルギーがある場合には麻酔のリスクがあるため、手術ができない場合があります。また、既往歴に先天性疾患や、心臓病、喘息、糖尿病、高血圧、腎臓病などがある場合には応相談となります。
Q12 入院は必要でしょうか?
A
全例日帰りの手術となりますので、入院の必要はありません。
Q13 手術のリスクを教えてください
A
出血、感染、痛みですが重篤な状態になる方はいません。
術後手術創部の再癒着、瘢痕化をきたす例がありますので、簡単なリハビリ練習が必要です。
Q14 初診から手術、術後の流れを教えてください
A
完全予約制です。
赤ちゃんの場合には、かかりつけ助産院や歯科医院からの紹介状を持参されることをお勧めいたします。
各クリニックによって多少の違いはありますが、下記に一例をお伝えいたします。
【初診時】
スライドでの疾患に関する説明
舌や上唇の診察
内視鏡で鼻咽頭喉頭の確認
舌癒着症であれば、希望者には手術日程をお決めします。
(舌癒着症であっても、手術をしなければいけないということは絶対に言いません)
【手術】
日帰りで行います
赤ちゃんは術直後から哺乳していただきます
【手術翌日】
診察をし喉頭ファイバーで鼻咽頭喉頭の確認をします
舌や上唇部位のリハビリ練習をします
【手術1週間後】
創部確認、消毒などをします
【手術2週間後】(成人以外)
創部確認、消毒などをします
【手術1か月後】
創部の確認、喉頭ファイバーで鼻咽頭喉頭の確認をします
以上です。
Q15 舌癒着症手術はなぜ保険適応外なのでしょうか?
A
現在、日本の医療保険制度で治療が認められているものは『舌小帯短縮症における舌小帯形成術』のみです。舌癒着症治療はこの治療とは全く異なり、舌裏面の頤舌筋を切る手術のため、まだ保険適応外となります。
舌外来を予約された方へ
受診日に御用意していただくもの
・母子手帳(小学生未満であれば)
・保険証
・医療証(都内にお住まいの方)
・本人あるいは、親からみてお子さんの気になる症状があればそれを簡潔に箇条書きしてメモに記載したもの。
(例)手足が冷たい、おっぱい飲むときにむせてしまう、いびき等
・紹介状(助産院からの御紹介であれば必須です)。
助産院以外にも、他の小児科、耳鼻いんこう科、歯科医院や病院、クリニックからの紹介状があれば持参してください(必須ではありません)。
・基礎疾患(今までかかったことのある病気あるいは今現在かかっている病気)などがあれば飲み薬など含めわかるようにしてください。
・ミルクを飲んでいるお子さんの場合には、ミルク、お湯の準備を各自でお願い致します。